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「相手の幸せが自分の幸せだなんて、社会人やってるとなかなか前面には出せないだろ。
大抵は自分が中心だ。
自分が辛ければ世界が終わったような気になるし、自分が幸せなら世界中が平和な気さえする。
それが普通なのに、そうじゃない津田は凄いよ」
「…誉めすぎだよ」
「津田は相手の意思を尊重してる。
幸せはこうあるべきだとは絶対に言わない。
今までのお節介だって、いつだって相手の意見をきちんと聴いて踏襲した行動だったろ。
俺にとってはこの上ない心地好さだった。
だからそのままでいいんだよ」
津田が首を垂らすと、長い横髪がさらりと前に流れる。
隠れた瞳に張られたのは薄い水膜だ。
「…ありがとう」
詰まらせながら謝辞を漏らし、視線はテーブルに落ちる。
水上は項垂れる彼の背中を、バシリと力強く叩いた。
「泣くなよ」
「だ、だって…もう見限られたと思ったし、こんな風に言ってもらえるなんて思ってなくて」
言われてみれば。
将来の夢やら仕事の愚痴を語った事はあっても、同性を、それも本人を目の前にして褒めるなど今までなかったように思う。
だがきっと、こんな機会でも訪れなければ今後も口にしなかっただろう。
ましてや彼の長所も存在の重要性にも、気付く事さえ出来なかったかもしれない。
「見限る訳ないだろ。
むしろ『また失うかもしれない』ってこっちがビビってたぐらいだ」
意外、と津田は呟いた。
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