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「憶測でしかないから言うのやめとく。
ハッキリしたら教えるよ。
ただ、俺と瀬名にとってあまり良くない存在だって事は確かだな」
神妙な面持ちで水上が俯いた。
腑に落ちない津田だったが、表向きに頷くとそろそろ退席の合図だ。
「じゃあな。仕事の邪魔して悪かった」
「ううん、全然。
北川さんとも仲直り出来るといいねー」
「…ああ」
カウンターチェアから立ち上がり、厨房を縫って勝手口へ突き進む。
先日の去り際と同じ姿だが、彼等を包む空気は先日とは違って棘がない。
「津田。
さっき『そのままでいい』って言ったけど、やっぱり訂正。
一つだけ改めてほしい」
勝手口を跨ぐ寸前で、水上が振り返った。
「これからはもう、自分の罪のように思わないでくれ。
俺が親父の件を引きずってたのは、死に目に会えなかった事そのものよりも、直接謝罪出来なかった事に悔いてたからだ。
その原因は絶対に津田のせいなんかじゃないし、遡ればきりがない。
誰かのせいとかそういう問題じゃない」
津田は黙って頷いた。
もう、瞳に水の粒を蓄えてはいない。
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