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その夢を見たのは、眠りに落ちる間際に沙那からこう問い掛けられたからかもしれない。
『もしお姉ちゃんじゃなくて私が玄関に出てたら、運命変わってたりするのかな?』
深夜開催の女子トークの最中、水上との出逢い方を瀬名が白状すると、沙那は酷く驚いた。
それもそのはず。
瀬名と水上が玄関で出逢った瞬間、部屋は違えど彼女も在宅していたのだから。
『変わってたら、沙那は星也さんとくっついてなくて、星也さんは他の誰かと付き合ってるかもしれないよ?』
布団に潜りながらそう返すと、沙那が唸った事は朧気に記憶している。
そして見たのが、あの時を再現した夢。
桜の花が咲き誇る、季節は春、二十歳の誕生日を過ぎたばかりの日だ。
玄関扉を開けた先に現れた、スーツ姿の長身男性。
ブラウンの柔らかな髪。
射抜くような眼差し。
低く甘い声。
そして突き付けられた言葉は、
『一目惚れなんだ』
初見で一体どこに惹かれてくれたのか、数ヶ月経た今でも見当はつかないが。
一目惚れという現象が存在するのなら、自分もこの時、彼に対して一目惚れに陥っていたのかもしれない。
夢のお陰でそんな物思いにふけていた、瀬名の朝。
一週間の仕事の疲労と、夜通しの女子トークで寝不足気味で。
何となく体が重たい瀬名の脇を、会社の制服姿の沙那が忙しそうに何度も往復している。
シフトでは彼女も公休だったらしいが、スタッフの急病により午前中のみ代理の出勤となったらしい。
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