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「…電源落ちてました」
玄関フロアまで小走りで戻ってきた瀬名が申し訳なさそうに見上げると、ほっと安堵の息を吐く水上である。
「じゃあ着信拒否とかじゃ…」
「ぜ、全然そんなつもりなくて…いつの間にか落ちちゃってたみたいです」
バッテリーの交換時期なのか、最近の瀬名の携帯は、一晩充電を怠ると半分以上示されていた充電マークが翌朝底をついている事が多い。
昨晩はうっかりしていた。
古い型という事もあり近いうちに機種変更しようと考えていたところだが、それはまた別の話である。
「…すみません」
瀬名が小さく詫びた。
途端に、水上が自分の前髪をくしゃりと鷲掴みながら、その場に脱力するようにしゃがみ込んだ。
頭を抱えたまま深く長く嘆息する。
「うわカッコ悪…俺」
「えっ、え、そんな事は…っ」
「着拒されてるかもって思って…むちゃくちゃ悩んで、結局いても立ってもいられなくなって朝っぱらから押し掛けて…インターホンで何て言おうかシミュレーションして…」
俺、めちゃくちゃ女々しい。
小さく丸まりそう独り言を吐く水上は、瀬名がよく知る余裕溢れる紳士ではない。
だが、そんな彼の姿を視界に宿す瀬名の心は大きく揺さぶられた。
子供みたいにしゃがみ込んで。項垂れて。
きっとアパートの前で、玄関の前で、何度もシミュレーションしては躊躇したのだろう。
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