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それはお互いが初めて交わすかのようにぎこちない、束の間の仲直りのキス。
唇が完全に離れると二人は暫し見つめ合い、やがて破顔した。
必死に相手を庇って己の非を主張する自分達が、何だか可笑しくて。
どちらもが柔らかく微笑み、お互いの顔を見合わせる。
「…って、ここ玄関でした!すみませんっ」
はたと気付き、瀬名は急いで立ち上がる。
彼女は一段高い床の上であったからまだいいが、水上は完全に土足スペースに腰を下ろしていたものだから、ボトムが少しばかり埃っぽくなってしまった。
「今さらですけど、良かったら上がって下さい」
「いいの?」
「立ち話も何ですし、沙那は仕事でいないので」
妹不在も、なかなか今さらすぎる情報である。
「初めてだね。部屋まで上がらせてもらうの」
水上の言葉に、瀬名の心臓がドキリと跳ねる。
言われてみればそうだ。しかも、二人きり。
水上の自宅では何度か経験済みだが、自分の家に招き入れるというのはまた違った感覚だから何ともくすぐったい。
おじゃまします、と水上はチノパンを軽くはたいてスニーカーを脱ぐ。
その矢先、
「きゃ―――――っ!!」
耳をつんざくような悲鳴が上がり、驚いた水上が覗き込むと、リビングに大慌てで向かった瀬名が再び叫ぶ。
「み、見ちゃ駄目ですっ。視界にモザイクかけて下さい!もし見えたら直ちに記憶から消去して下さい!」
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