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駐車場から車道へと走らせて、津田の車は次第に瀬名の自宅アパートへ近付いていく。
間もなく自宅に到着すると、瀬名はすぐに荷物をしまって再び乗り込んだ。
再スタートをきった車は、今度は水上の居場所を目指す。
「あのさ、水上…ちょっと前までカラ元気だったんだよね。
たまに店に顔出しに来るんだけど、一見明るそうなのにふと見せる影が気に掛かるっていうか」
フロントガラスの奥を見据えながら、津田は静かに口を開いた。
「閉店後の夜に来た時は、店のソファーシートでおもいっきり寝られちゃった事もあったなー」
(水上さんが…?)
スマートで落ち着いていて、何でもこなしてしまいそうに見える彼の、そんな姿はとても想像出来なくて。
瀬名はぽつりと呟く。
「よっぽど大変だったんですね…」
「うん、毎日疲れてる感じだったよ。父親の会社に入ったっていう重圧もあったんだろうね。
―――でもね」
津田の表情は見えないが、少しトーンの上がった声はこれから喜びを語り出す合図のようだ。
「北川さん、この間一緒に店に来てくれたでしょ?」
「はい」
「その次の日、野暮用があって水上に電話したら、嬉しそうに言ってたよ。
『紅茶に大量のミルク入れてたのは彼女だった』って」
「………?」
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