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水上の低い声色を真似たのだろう、一オクターブ下がった彼の言葉の趣旨が汲めずに、瀬名はきょとんとした顔でいる。
すると津田は目を細めて、今度は柔らかな声を上げた。
「ほら、この間北川さん言ってたでしょ?『以前は紅茶を出す時フレッシュが付いてたけど、今はミルクポットになった』って。
あれが変わったきっかけは、北川さんがくれたんだよ」
「…わ、たしですか?」
「うん。水上から聞いたけど、北川さん、紅茶頼むと結構フレッシュ使うんだって?
ウチの店も以前はテーブルの端にいくつかソーサーに入れてたから、きっと同じようにしてたよね」
「あ、確かにたくさん使ってました…。
すっ、すみませんでした…!」
途端に申し訳ない気持ちになり、運転席に向かって平謝りをする瀬名に、
「あはは、もう時効だよー」と津田は少々おどけてみせる。
「でもね、ミルクポットを登場させるきっかけはそこだったんだよ。
お客さんが帰った後の、テーブルの上のいくつか空になったフレッシュを見て、ミルクを多く入れたいと思ってる人がいるんだと認識させられた。
それまでコストや手間の面でフレッシュが当たり前になっていた出し方に、検討する機会を与えてくれたんだよ。
だから、水上は君に感謝してるって、そう言ってた」
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