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靄のかかった彼女の意識に飛び込んできたのは、聞き慣れた携帯のメールの着信音。
「………ん、あ、れ…ケータイどこ…?」
夢から現実へと引き戻されたばかりの瀬名は、
まるで胴体以外を引っ込めた亀の如く、頭から被っていた掛け布団の中から、そろりと腕を伸ばし携帯の在処を探した。
無機質な硬い質感が指に触れ、布団の中へと手繰り寄せる。
二つ折りになっていたそれを暗闇で開き三回程キーを押すと、
『あやのさん』と送信者欄に記された、メール内容がディスプレイに表示された。
『お疲れ様。昨日は大変だったね。
マスターから聞いたよ。
瀬名ちゃんのことだから、落ち込んじゃってないかなーってちょっと心配。
私もしょっちゅう失敗したよ!
でも意味のない失敗なんてないからね。
元気出して!また月曜日から頑張ろう~』
届いたメールを読みながら、次第に意識はクリアとなる。
瀬名は携帯を閉じ、胸に抱えるように握り締める。
布団を被ったまま、昨夜の出来事の一つ一つを反芻していた。
顧客からのクレームの原因が、自らの仕事のミスであった事。
再び戻った事務所で修正作業を行った事。
そして―――、
共に作業していた涼から、思いも寄らない告白を受けた事。
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