233人が本棚に入れています
本棚に追加
『いい男になってみせる。だから、見ててほしい』
そう涼が告げた直後、夜の社内に再び電話が鳴り響いた。
軽井沢方面へと向かう最終列車に無事乗り込む事ができ、やっと時間の空いた保志沢からだ。
おおよそは星也から聞いていたようだったが、瀬名は彼に事の経緯と講じた対策を説明し、最後に懸命に詫びた。
通話を終えれば、社内に漂う妙な空気。
『もう、帰ろうか』と先に帰宅を促したのは涼で。
そして『家まで送るよ』と彼からの申し出に、瀬名は送ってもらうべきか否か、どちらがベストなのか分からず思わず断ってしまった。
結局、レンタルDVDを返却しに行くついでだからと、事務所のマンションまで迎えに来てくれた沙那の車で帰宅したのだが。
自宅に戻っても気分が落ち着く事は無く、脳裏を巡るのはくるくると同じ内容ばかり。
そうして眠れない夜を過ごし、自然と瞼が下りた頃には窓の外から陽が射し込み始めていたのだった。
昨夜を機に、瀬名はようやく気付いたのだ。
自分の胸の内を。
どんな想いを抱いているのか、それは誰に向けられているのかを。
自覚する事をどこかで恐れ、ずっと明確な言葉に出来ずにいた。
でも、今はもうはっきりと分かる。
最初のコメントを投稿しよう!