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今は食事を摂りたい気分ではないけれど。
さすがに買い出しに行かなくては、今夜の夕食すらまともに作れなさそうな程にピンチの状態だ。
瀬名は軽く身支度を整えると、いつもの二輪の愛車に跨がって、自宅アパートを後にした。
***
到着した先は自転車で約十分、日常的に利用している小さなスーパーだ。
車を持たない瀬名は、沙那に付き添わない限り、オフの日はこの店に買い物に来る事が多い。
大型店に比べこじんまりとしているが、狭い分目的の物がスムーズに見つかりやすく好んでいた。
けれどぼうっとした彼女の頭は、食に関する考え事を拒否しているようで。
(ご飯どうしよう…。思い付かない…。
とりあえず安めな肉と野菜買っていこ)
カートの買い物カゴには、適当な商品が放り込まれていく。
―――と、そこへ
「あれー奇遇だねー。北川さん…だっけ?」
背後から、穏やかな間延びした声が瀬名の耳に届いた。
彼女が振り向いた先に飛び込んだのは、
肩まで伸びた髪を一つに結っているせいか、少々女性的な、にこりと微笑むコックコート姿の青年。
「あ……津田さん!」
「偶然だねー。家近いの?」
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