伝えたい、真意と真実。【後編】

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「お待たせ」 呼び掛けられた声に振り向けば、瀬名の視界に現れたのは見慣れた水上のスーツ姿。 今日は深いグレーの上下に、斜めのラインが入った澄んだブルーのネクタイだ。 (あ、いつもの水上さんだ) ラフな普段着も新鮮だったけれど。 いつの間にか自分の中で『彼』イコール『スーツ』という図式が出来上がっていたのだと、思い知らされると共に。 今の彼の出で立ちに、瀬名はパズルがぴたりとはまったような感覚を覚えた。 「プリンとゼリー、ゴメンね。帰ったら絶対に食べるから」 「いえ、時間が空いた時にでもゆっくり…あっ、でも生ものなんでお早めに…」 「そだね」 水上は大事そうに、瀬名からの差し入れを冷蔵庫へしまう。 そしてノートパソコン等の入ったビジネスバッグを片手に、先程放り投げてしまった携帯を胸ポケットに納めて、オンタイムへと気持ちを切り替えた。 「それじゃ、名残惜しいけど行こうか。 あ、そういえばA大学って…」 「はい」 「門に繋がる並木道が、遅咲きの桜のアーチになってて有名なんだって。行った事ある?」 「いえ、初めてです」 「じゃあこの間の公園は先越されちゃったから、今度こそは一番だ。楽しみにしてるね」 ふいに子供っぽい笑顔を向けられて、瀬名の心臓がドキリと跳ねる。 「私も楽しみにしてます。試験、頑張って下さいね」 玄関フロアで靴を履く彼の幅広な背中に向かって、瀬名は明るく答える。 微笑んだ水上が扉を開けると、夕方になって冷え込んだ春の風がひゅうと室内に吹き込んだ。
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