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何をもって『大事とする』かの定義は人それぞれで、それは具体的な行動例を明示しない曖昧な表現だけれど。
これまで水上が向けてくれた言動と滲み出る人柄を思えば、彼自身が随分前から貫いてきた信念なのだと瀬名は思う。
見えない彼に思いを馳せて沸き起こる不安も、嫉妬も、彼女だからこそ抱く自然な感情だ。
そして、それら負の感情を包み込み前向きにさせてくれるのも、彼女という立場だからこそ得られる信頼関係だ。
「ありがとうございます。おかげで復活出来ましたっ。
私一人きりだったらヘコみまくってたかもしれません」
「いえいえー。そりゃあ水上の好きな子が困っているとあらばね」
冗談めいて返す津田に、瀬名は思わず口元に手を当ててぷっと吹き出す。
「津田さんって、本当に水上さんの事が好きなんですね」
「あはは、そうだねー。
水上には幸せになってもらいたいって、ずっと前から思ってるからね。
こういうお節介も、僕なりの罪滅ぼしの一つかなーなんて」
「え…?」
罪滅ぼし、だなんて。
突然の物々しい言い様に、面を食らった瀬名が言葉を続けられないでいると、津田が慌てて場の雰囲気を濁す。
「あ…いや、えーと、ちょっと昔に水上に悪い事しちゃってさぁ。その、お詫びっていうか何というか。
…まぁ、僕が勝手にやってるだけで水上が望んでる訳じゃないんだけど」
柔らかな語句でどこか懸命に弁明する津田。
その表情には、余計な事を言ってしまったという、自身への後悔の念が浮かんでいた。
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