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結局、津田が漏らした『罪滅ぼし』の真意を瀬名が問う事はなかった。
元々、他人の事情を根掘り葉掘り尋ねられない性格だ。
相手側から聞いてほしいと望まれた場合はともかくとして、張られたバリアを無理矢理潜って聞き出すのは性に合わない。
それに、長い付き合いという彼等の事。
(何年も一緒にいるんだもんね。男同士にしか分からない秘密の共有みたいなのがあるのかも…)
そう思った瀬名は、少し心に引っ掛かる感覚を覚えながらも深追いする事が出来ないのであった。
明けて、翌日の昼休憩。
午前中に顧客からの依頼であるWebサイトの更新を順調にこなした瀬名は、事務所に程近い本屋に足を運んでいた。
残り一冊だった隔月刊行のデザインムックを手に入れて、残りの休憩時間で眺めようとホクホク気分で事務所に引き返す。
「お疲れ様です」
「…おう」
返ってきた挨拶は、無愛想な男性のバリトンボイス一つのみ。
外出前には揃っていたメンバーが欠けている。
「あれっ、星也さん、他の皆さんは…」
「アイツと小池なら飯食いに出掛けたところだ。滝本は…いつの間にか消えてるな。どこ行ったんだ」
パソコンと対峙していた体を仰け反らし、辺りを一瞥して星也は呟いた。
頷いた瀬名は、通勤バッグから取り出した手製の弁当と、購入したばかりの本を抱えて休憩室へ向かう。
「北川、話がある」
不意を突いた星也の声が、彼女の歩みを止めた。
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