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「…?業者さんかなー」
営業時間外に勝手口側から訪ねてくるのは、大抵が食材等の仕入れで馴染みのある業者だ。
「あ、パフェ食べてていいよ」
一言残して、厨房側にいた津田が、外の様子を伺いに勝手口のドアノブを捻った。
「…すみません、ここに主任はいらっしゃいます?」
戸の奥から聞こえてきたのは女性の声。
瀬名達が座るカウンター席から訪問者の顔は見えなかったが、落ち着きのある少し低い美声が静かな店内にクリアに響いた。
「あれ、確か水上と同じ部署の…。
水上ー、お客さんだよー」
訝しげに眉をひそめて、水上は席を立ち訪問者の待つ勝手口へと向かう。
「え…薫さん、どうして?」
驚く水上の声が聞こえて、瀬名の胸がドキリと鳴った。
(…『薫さん』って…きっとあの人だ)
「すみません、一時間程前に主任の携帯にかけたんですが繋がらず…。
たまたま前を通り掛かったら主任の車があったので、ここにいらしてるんじゃないかと思いまして」
「あぁ、ごめん、さっきまで駅ビルの地下にいたから。…で、何かあったの?」
「緊急で相談したい事があるんです」
薫はそう言って声を潜めた。
水上の相槌のような声が時折聞こえるも、二人の会話は瀬名にほとんど届かなくなってしまった。
仕事の内容だろうと予測はつくし、盗み聞きはよくないと分かっているけれど。
(…何か、もやもやする…)
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