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数分経て、パフェが空になるまであと少しというところで、水上がカウンター席へ戻ってきた。
だが瀬名の安堵も束の間、晴れない水上の表情に彼女の顔も曇りに転じる。
「…ごめん、今から会社に戻らないといけない」
「…そ、うですか」
「先週発注した建材に欠品があって、さっき代替品が届いたらしくて。お客さんの所にも説明に行かないといけないから。
呼び出しておきながらごめんね」
「いえっ、いえ、全然…っ。
気を付けて行ってきて下さいね」
なるべく明るい声のトーンを努めて、首を振る瀬名。
水上はいとおしそうに目を細めると、カウンターチェアに腰掛ける彼女にさらに近付き、
「明日は水曜日で俺休みだから、夜に会おう。
瀬名の仕事が終わった頃に迎えに行くよ。連絡して」
そう、耳元で囁いた。
「それじゃ」
水上の手の平が瀬名の頭をそっと撫でる。
踵を返し、勝手口から消えて薫と共に去る水上の後ろ姿を眺めて。
独りきりで取り残されてしまったような孤独感が瀬名を襲う。
(薫さんと…一緒に、会社に…。
あぁ、やだ、水上さんは仕事なのに)
灰色の重たい感情を自覚して、そんな感情を抱いてしまった自分への嫌悪感に一層気分が重くなる。
大人にならなきゃ、大人に。
そう言い聞かせて、最後のひとすくいで容器の内側に残ったクリームを口に運んだ。
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