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「気になる?」
「えっ」
ふいな津田の呼び掛けに、瀬名はハッと我に返り顔を上げる。
カチャカチャとボウルと泡立て器のぶつかる音を立たせて、カウンターの裏側で津田が仕込みを始めているようだ。
「い、いえ、水上さん、仕事の時間が不定期で大変だなぁって。
あ、パフェ美味しかったです!ごちそうさまでした」
「ありがとう。これ夏の新作メニューで出したいんだけど、改善した方がいいところってあるかなぁ?」
「えっと、そうですねぇ…」
平静を装ってパフェの感想を述べながらも、瀬名の脳裏をある光景が掠める。
それは以前駅の構内で見掛けてしまった、水上と薫が肩を並べて歩く姿。
共に長身で、整った顔立ちとボディライン。
特に薫の、ヒールの高いパンプスとパンツスーツ姿からは女性の色気に溢れていた。
駅で二人を見掛ける前に、食品店で薫だけに会った時だってそうだ。
自分には到底真似出来ない、同性の視線さえ奪ってしまうほどの色香に満ちた女性と、彼が近い距離にいるかもしれないなんて―――。
(…何思い出してるの。
水上さんは、ただの同じ会社の人だって言ってたんだし。
…それに私は、一応“彼女”になったんだし…)
それはまだ、実感の湧かないポジションだけれど。
「北川さん」
「は、はい」
「水上なら、大丈夫だよ?」
間延びした穏やかな声で、津田がにっこりと笑いかけた。
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