彼氏と彼女、その陰で。【前編】

7/25
前へ
/25ページ
次へ
「気になる?」 「えっ」 ふいな津田の呼び掛けに、瀬名はハッと我に返り顔を上げる。 カチャカチャとボウルと泡立て器のぶつかる音を立たせて、カウンターの裏側で津田が仕込みを始めているようだ。 「い、いえ、水上さん、仕事の時間が不定期で大変だなぁって。 あ、パフェ美味しかったです!ごちそうさまでした」 「ありがとう。これ夏の新作メニューで出したいんだけど、改善した方がいいところってあるかなぁ?」 「えっと、そうですねぇ…」 平静を装ってパフェの感想を述べながらも、瀬名の脳裏をある光景が掠める。 それは以前駅の構内で見掛けてしまった、水上と薫が肩を並べて歩く姿。 共に長身で、整った顔立ちとボディライン。 特に薫の、ヒールの高いパンプスとパンツスーツ姿からは女性の色気に溢れていた。 駅で二人を見掛ける前に、食品店で薫だけに会った時だってそうだ。 自分には到底真似出来ない、同性の視線さえ奪ってしまうほどの色香に満ちた女性と、彼が近い距離にいるかもしれないなんて―――。 (…何思い出してるの。 水上さんは、ただの同じ会社の人だって言ってたんだし。 …それに私は、一応“彼女”になったんだし…) それはまだ、実感の湧かないポジションだけれど。 「北川さん」 「は、はい」 「水上なら、大丈夫だよ?」 間延びした穏やかな声で、津田がにっこりと笑いかけた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

422人が本棚に入れています
本棚に追加