422人が本棚に入れています
本棚に追加
「って、僕が断言するのはおかしいかもしれないけど。
北川さんの気持ちは分からなくもないよ。
薫さん…だっけ?あの人、やたらと綺麗だしさー」
『やたらと綺麗』と呟くその口の持ち主も、充分すぎるほどに綺麗な顔立ちを携えているのだが。
どうしてこうも自分の周囲は揃いも揃って美男美女ばかりなんだろう、と瀬名は無関係な悩みを頭の片隅に走らせた。
あぁ、そうじゃなくて。
瀬名は内心勝手に逸れた話題に首を振って尋ねる。
「薫さんって、さっきここからは見えなかったんですけど、ショートカットで背が高い方…ですよね?
それと、少し甘い香水の香りがする…」
「あれ、大正解。彼女を知ってるのー?」
(やっぱり…あの女の人は『薫さん』なんだ)
先程水上と共に消えた女性の名と、記憶の中の女性の容姿が合致する。
「直接話をした事はないです。
でも、二度だけ見掛けた事があって、凄く美人な人だから印象的で…」
抑揚が消えていく瀬名の声を聞きながら、津田は取り出したハンドミキサーのスイッチを入れる。
細かく震える器械音を暫し厨房中に響かせ、やがてその音はぴたりと止んだ。
「そっか。んー、まぁ確かに、彼女は僕から見ても男性の本能をくすぐる美貌を持ってるかもしれないけどねー。
でも北川さん、安心して?
水上は北川さんが心配になるような事をしでかす奴じゃないよ」
下げていた視線をボウルの中身から瀬名へと移し、津田は再び笑みを浮かべる。
最初のコメントを投稿しよう!