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「って、僕が断言するのもおかしいかもしれないけど。あ、また同じ事言っちゃった」
そう言って津田は、舌の先をちらりと見せておどけてみせる。
ぬるま湯的などこまでも穏やかな声の調子に真剣味を加えて。
ボウルの中身を別の容器に注ぎながら、津田はさらに口を開いた。
「僕と水上は、調理師学校の時からの付き合いなんだ。もう八年くらい一緒にいるかなぁ。
僕が知る限り、水上はいい加減な人付き合いをする奴じゃないし、一時の情に流されて好きな子を傷付けるバカじゃないよ」
麗しく整ったパーツには不似合いな『バカ』というフレーズが飛び出した事に少々驚きつつ、瀬名は静かに首を縦に下ろす。
「大事にすべき人を大事にする。そう決めてるんだって、以前言ってたよ」
そんなの当たり前の事で、でも意外に難しかったりする事なんだけどねー。
そう付加して、津田はもう一度目尻を下げて瀬名に視線を送った。
「だから、大丈夫」
言い切る津田の姿が眩しく見える。
いくら新米彼女を励ます為とはいえ、そこまで自信を持って言い切れるのは彼等の間に大きな信頼と友情関係があるからで。
彼等の出会いと築き上げた歴史に自分が登場しない寂しさを、心のどこかで感じたりもするけれど。
でも今は、そんなつまらない事を嘆いている場合じゃない。
―――信じよう。
瀬名の心を覆っていた灰色の靄が、次第に取り除かれていく。
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