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あの日と同じ、水上の自宅で、ソファーの上で、同じ体勢で。
だけどあの日には1ミリたりとも行われなかった箇所―――瀬名の唇へのキスが、今まさに繰り返される。
瀬名が抱いた『されてしまうかもしれない』という予感を幾度も裏切って、ようやくそれが解禁されたのはつい先日。
秘密を打ち明けた彼女が、水上に二度目の告白を果たした夜の車内での事だ。
「…はぁ…っ、み、なか……」
重なった顔が僅かに離れ、生じた隙間から目一杯の酸素を乞う。
水上の名は最後まで呼ばれぬうちに、再び落とされたキスに溶けていった。
欲に従った彼の行動は、大抵が不意打ちだ。
初めての出逢いでも、再会した時でも、全て突然のアクションから始まっていた。
だけどいつだって共通していたのは、それらは決して無理強いではなかったという事。
今でも瀬名の華奢な体を抱き締めながら、その力は強引ではなく、割れ物を扱うように自らの腕にそっと収める。
キスは熱を込めて、抱擁は優しい力で。
欲に忠実でありながら、愛しき彼女への気遣いを怠る事はない。
「瀬名」
潤む瞳で見上げた彼女の紅潮した頬を、節のある大きな手の平が包み込む。
「好きだよ」
先程まで彼女に触れていた唇は弧を描き、短くも的確な愛の言葉を紡ぐ。
「…私も、です」
―――と不意に届いたのは。
ソファーの傍らに置かれた瀬名の通勤バッグの中で、小刻みに振動する気配。
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