彼氏と彼女、その陰で。【後編】

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あの日と同じ、水上の自宅で、ソファーの上で、同じ体勢で。 だけどあの日には1ミリたりとも行われなかった箇所―――瀬名の唇へのキスが、今まさに繰り返される。 瀬名が抱いた『されてしまうかもしれない』という予感を幾度も裏切って、ようやくそれが解禁されたのはつい先日。 秘密を打ち明けた彼女が、水上に二度目の告白を果たした夜の車内での事だ。 「…はぁ…っ、み、なか……」 重なった顔が僅かに離れ、生じた隙間から目一杯の酸素を乞う。 水上の名は最後まで呼ばれぬうちに、再び落とされたキスに溶けていった。 欲に従った彼の行動は、大抵が不意打ちだ。 初めての出逢いでも、再会した時でも、全て突然のアクションから始まっていた。 だけどいつだって共通していたのは、それらは決して無理強いではなかったという事。 今でも瀬名の華奢な体を抱き締めながら、その力は強引ではなく、割れ物を扱うように自らの腕にそっと収める。 キスは熱を込めて、抱擁は優しい力で。 欲に忠実でありながら、愛しき彼女への気遣いを怠る事はない。 「瀬名」 潤む瞳で見上げた彼女の紅潮した頬を、節のある大きな手の平が包み込む。 「好きだよ」 先程まで彼女に触れていた唇は弧を描き、短くも的確な愛の言葉を紡ぐ。 「…私も、です」 ―――と不意に届いたのは。 ソファーの傍らに置かれた瀬名の通勤バッグの中で、小刻みに振動する気配。
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