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籠を元の位置に戻して手を洗い、夕王の目の前に座る。
「いただきます」
「おう」
空狐も夕王も神なのだが、生活は普通の人とは変わらない。
掲げる文字は質素倹約だし、人里に下りたりする。
豊穣の祭りの際のお供え物の米や酒は貯蔵して飢饉対策にとってある。
長い目で時を歩むことが出来るので何があるかは本当にわからない。
基本的に神は死ぬことはないし、天狐の場合は特別だった。
夕王の体には、今でも天狐の肉体が宿っている。
どれほどまでに天狐は愛されていたんだろう、夕王を愛していたのだろう。
それを考えてしまうと空狐は悲しくなった。
夫婦神になったとはいえ、仮面夫婦のままで終わるのではないのだろうか。
少し悲しくなりながらも、高望みはしないと自分に言い聞かせ、空狐は箸を動かした。
「おいしいです」
誰かに料理を作ってもらうと、こんなにも心に沁み渡る。
お椀を持ちながら、夕王と微笑みあっている空狐は穏やかな日々を過ごすのだ。
しかし、それは永遠ではないのだが…。
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