君の名は。【後編】

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声色に変化がなかったせいか、マグカップのホットミルクティーを冷ますのに専念する瀬名は、水上の表情の陰りに気付かないでいる。 「はい。長浜星也さんていって、プログラム設計やサーバー関連を担当してる方なんですけど」 「…下の名前で呼んでるんだ」 「変わってますよね。昔からそういう社風みたいです。 でも私、星也さんより八つも年下なんで、ちょっと生意気かなとか思ったりするんですけど、他の方もそう呼んでるからいつの間にか馴染んじゃって」 「……」 「あっ、今気付きました! 水上さんと星也さんって同い年なんですね」 さらに沙那と星也がうまくいってくれれば、姉妹揃っての歳の差カップルだ―――瀬名は内心こっそりとそう思う。 マグカップの中身に息を吹き掛ける彼女から、小さな笑みが零れた。 「俺の事は、名前で呼んでくれないの?」 「え…?」 瀬名が驚いて顔を上げる。 視界に映ったのは、寂しげな少年みたいな目をした水上だ。 すくい上げるように覗き込まれて、互いの視線が交わる。 「『水上さん』って、ずっと苗字で呼ばれてるよ。俺は下の名前では呼んでもらえないのかな」 「き、急に言われても…」 (どうして突然そんな事…) 彼は『水上さん』だ。 出逢った時から、付き合い始めてから、今日までずっと。 他の名で呼んでみようとは思いも及ばなかった。
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