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声色に変化がなかったせいか、マグカップのホットミルクティーを冷ますのに専念する瀬名は、水上の表情の陰りに気付かないでいる。
「はい。長浜星也さんていって、プログラム設計やサーバー関連を担当してる方なんですけど」
「…下の名前で呼んでるんだ」
「変わってますよね。昔からそういう社風みたいです。
でも私、星也さんより八つも年下なんで、ちょっと生意気かなとか思ったりするんですけど、他の方もそう呼んでるからいつの間にか馴染んじゃって」
「……」
「あっ、今気付きました!
水上さんと星也さんって同い年なんですね」
さらに沙那と星也がうまくいってくれれば、姉妹揃っての歳の差カップルだ―――瀬名は内心こっそりとそう思う。
マグカップの中身に息を吹き掛ける彼女から、小さな笑みが零れた。
「俺の事は、名前で呼んでくれないの?」
「え…?」
瀬名が驚いて顔を上げる。
視界に映ったのは、寂しげな少年みたいな目をした水上だ。
すくい上げるように覗き込まれて、互いの視線が交わる。
「『水上さん』って、ずっと苗字で呼ばれてるよ。俺は下の名前では呼んでもらえないのかな」
「き、急に言われても…」
(どうして突然そんな事…)
彼は『水上さん』だ。
出逢った時から、付き合い始めてから、今日までずっと。
他の名で呼んでみようとは思いも及ばなかった。
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