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互いを少しずつ知ればいいと彼女に説きながら、知られる事を恐れているのは自分の方だ。
欲と嫉妬ばかりのこの胸の内を知ったら、彼女はどう思うだろうか。
大人なんかじゃない。
彼女を欲する想いは底無しで、それはまるでゲーム機を与えられた子供のように。
果てなく興奮と快感を求め、尽きる事はない。
体を抱き締められるだけで満たされていたのに、次はキスを、さらにその次もと深く追い求める―――。
水上はドリップを終えたカップを手に取り、コーヒーを口に含んだ。
と、ジャケットの内ポケットに入っていた携帯が細かく震えだす。
(忘れ物でもしたのか?)
まさかと思い急いで携帯を取り出すが、画面に表示された名にがくりと肩を落とした。
『おはよー水上。元気ー?』
「津田…朝から何の用だ」
『うわぁ、そっけなー。
水上って低血圧なの?それとも北川さんかもって期待してガッカリしちゃったー?』
図星を突かれ、瞬間押し黙る。
「朝礼が迫ってるから用件は手短に」
『えー久しぶりだから世間話したかったのになぁ、残念。
あ、そうそう。先月分の売上と仕入れ表ってファックスすればいい?』
「ファックスよりもPDFでメールに添付してほしい。データでもらう方が鮮明で入力もしやすい。送り先は管理課で」
『はいはーい』
相変わらずぬるま湯のような緩い口調が、電話越しに水上の耳に届く。
水上が津田の声を聞くのは半月ぶりであったが、二人の掛け合いに時間の空白が全く感じられないのは、男同士で築かれた友情の賜物といえよう。
「訊きたい事はそれだけか?」
『んー』と、間延びした声の後、津田の二の句が続けられる。
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