君の名は。【後編】

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互いを少しずつ知ればいいと彼女に説きながら、知られる事を恐れているのは自分の方だ。 欲と嫉妬ばかりのこの胸の内を知ったら、彼女はどう思うだろうか。 大人なんかじゃない。 彼女を欲する想いは底無しで、それはまるでゲーム機を与えられた子供のように。 果てなく興奮と快感を求め、尽きる事はない。 体を抱き締められるだけで満たされていたのに、次はキスを、さらにその次もと深く追い求める―――。 水上はドリップを終えたカップを手に取り、コーヒーを口に含んだ。 と、ジャケットの内ポケットに入っていた携帯が細かく震えだす。 (忘れ物でもしたのか?) まさかと思い急いで携帯を取り出すが、画面に表示された名にがくりと肩を落とした。 『おはよー水上。元気ー?』 「津田…朝から何の用だ」 『うわぁ、そっけなー。 水上って低血圧なの?それとも北川さんかもって期待してガッカリしちゃったー?』 図星を突かれ、瞬間押し黙る。 「朝礼が迫ってるから用件は手短に」 『えー久しぶりだから世間話したかったのになぁ、残念。 あ、そうそう。先月分の売上と仕入れ表ってファックスすればいい?』 「ファックスよりもPDFでメールに添付してほしい。データでもらう方が鮮明で入力もしやすい。送り先は管理課で」 『はいはーい』 相変わらずぬるま湯のような緩い口調が、電話越しに水上の耳に届く。 水上が津田の声を聞くのは半月ぶりであったが、二人の掛け合いに時間の空白が全く感じられないのは、男同士で築かれた友情の賜物といえよう。 「訊きたい事はそれだけか?」 『んー』と、間延びした声の後、津田の二の句が続けられる。
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