君の名は。【後編】

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『順調?』 「何が」 おおよその見当はつくが、あえて訊き返す。 『応援してるからね』 「…人の世話はいいから自分の世話を焼いた方がいいと思うぞ。彼女募集中なんだろ」 『んー、そうなんだけどねぇ。 ほら、僕って自分の恋愛に関しては押すよりも押される方が好みっていうか。水上みたいにアタックしにいくタイプじゃないからさぁ?』 同意を求められても。 しかも話題をふったのはこちら側だが、朝から職場でする電話の内容にしては女々しすぎやしないか。 「もう訊きたい事がないなら切るぞ」 通話終了ボタンを押そうとした水上の指を、津田の慌てた声がとどまらせた。 『あのさ、最後にウチの店に来てくれたの、ゴールデンウィーク終わってすぐだったっけ。 その日水上が帰った後、北川さん、少し心配事があるってこぼしてたよ』 「瀬名が?何て…?」 焦りを含んだ語気に、津田の微笑が電話口から漏れる。 『水上の会社にいる女の人、えーと名前は何だっけ…あ、思い出した。薫さん。 キレイな人だし、よく水上の近くで見掛けるから心配だって』 「彼女とは単なる社員同士の仲だ」 『僕に言ってどうすんのさ。ちゃんと北川さんに伝えて安心させてあげないと』 分かってる、と水上がぶっきらぼうに返すと、津田はもう一度微笑を声色に含ませた。 『えー、そぉう?どうせ水上の事だから、控えめな北川さんとの進展がなくてヤキモキ、イライラして、別の問題起こしてるんじゃないの?』 またもズバリと明察されて、返す言葉もない。 盗聴でもしてたのかと疑いたくなるほどだが、八年超えの古株の親友である彼なら納得の推理力だ。
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