君の名は。【後編】

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(…俺の悩みと似通ってないか…?) お互いの職場の、異性の存在が気になって仕方がない。 一日の多くを占有する仕事という時間に、空間を共有し、業務内容を共有する。 それが時に立場を越えたアプローチに繋がりかねないのでは、と危惧している。 ―――そうだ。 きっと、自分達には会話が足りてない。 会話をして、本音を晒して、もっとお互いを信頼し合わなければ駄目なんだ。 余計な詮索など必要ないくらいに。 言わずとも思いを汲み取ってあげられるというのは幻想で。 少しずつお互いを知ればいいと、分かった風に大人の発言をしたところで、彼女の見えない部分に憂慮していては本末転倒だ。 必要なのは、彼女を抱きたいという盲目的な願望や勢いじゃない。 信頼関係が根底に築かれている事。 それが無ければ、どれだけ肌を重ねたって、心も絆も空虚なだけなのに―――。 大事にすべき人を大事にする。 そう決めたのは自分自身だったと、水上は思い起こす。 やがて迎えるは朝礼の時刻。 主任である水上がフロアに号令を落とすと、他の社員が彼の周りに集い始めた。 そこに居る誰もが、本心では早い帰宅を望んでいただろう。 (瀬名、君に早く会いたい。 会って、たくさん話がしたい…) その中でも一段と強く願っていたのは、出勤前に別れたばかりの彼女へ思いを馳せる水上であった。
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