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真っ直ぐな眼差しが瀬名を見据えた。
「俺は、瀬名しか見てない。
初めて声を掛けた時からも、これからも」
「私も、鷹洋さんだけです」
視線が絡むと二人の唇が再び重なった。
ついばむように優しく、食むように深く、互いの熱を注ぎ合う。
頬を擦り、相手の背に強く腕を回して抱き締め合った。
信じてる―――まるでその誓いを立てるように。
「瀬名、今日は俺の家で夕飯食べよう」
この間の仕切り直し、と水上が彼女の耳元で囁いた。
「あっ、私オムライスがいいです!」
意気揚々とメニューを提案されてぷっと吹き出す。
「津田の店じゃなくて?」
「水上さんの家で!」
「瀬名もオムライス好きなんだね。
いいよ、一緒に作ろう」
咄嗟の返事は意識しなかったせいで、彼の呼び名が戻っている事に瀬名は無自覚だ。
呼び慣れるまでにはまだまだ時間を要しそうである。
一方、気付いていながらもそんなミスさえ愛しくて指摘しないでおく水上は、一枚上手なのかはたまた重症か。
目の前の彼女しか眼中にない事は火を見るより明らかだ。
しばらく路肩に停められていた、二人を乗せた車が動き出した。
目的地は、彼の自宅。
梅雨も半ばの湿気を含んだ空気がまとわりつく夜だが、愛する人と共に過ごす今宵は、絆が深まる甘い時間を紡ぐ事だろう。
たくさん話をしよう。
まだまだ知らない、お互いの事を。
もっと君が知りたい。もっと貴方が知りたい。
そんな思いを共有しながら。
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