初めてのプレゼント。【後編】

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「あの、納得しておきたいのでもう一つだけ訊いていいですか?」 「何?」 「み…鷹洋さんの会社に、薫さんって方いると思うんですけど、何で下の名前で呼ばれてるのかなって。 同じ苗字の方が他にもいらっしゃるとか、ですか?」 星也や涼といった、勤務先のスタッフを下の名で呼ぶ瀬名を『ズルい』と言った水上だ。 その件は既に詫びられているし、彼に限って、自分の事は棚に上げて他人には求めるという考えはないと思いたい。 たがやはり、心のどこかで引っ掛かっている靄は出来る限り払拭しておきたいのだ。 「薫さんは、苗字だよ」 「えっ、苗字!?」 穏和な笑みを浮かべて答える水上とは対照的に、素っ頓狂な声が上がった。 「うん、『薫』が苗字。 下の名前は何だったかな、分からないけど薫じゃない事は確か。 変わってるよね。 俺もお客さんから言われた事あるし、本人もよく間違えられるってぼやいてるよ」 「そ、そうなんですか…」 気に掛けるには何とも杞憂な真実を知り、すっかり脱力する瀬名だ。 予想だにしていなかったボールが返ってきたが、名前だと思い込んでいたら実は、というのは世間でもしばしば見受けられる話である。 かくいう瀬名自身も、使用されている漢字が苗字向きなのか『瀬名』が苗字だと思われていた、という逆のパターンを経験している。 「心配させちゃってたんだね。 俺がきちんと説明しておけば良かった」 「いえっ、私が勝手に思い込んでいただけで」 「それだけじゃなくて」
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