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水上が瀬名の手をとり指を絡めた。
初夏でも指先が冷たい瀬名とは違って、水上のそれは温かく、まさに人肌のぬくもりだ。
「ずっと、薫さんの事気になってたんだよね?
津田から聞いたんだ。
彼女をよく俺の近くで見掛けるから心配だって、瀬名が店に来た時に言ってたって」
「すみません。薫さん、凄く綺麗な人だから…。
津田さんは、彼女なんだから自信持ってって励ましてくれました」
「俺は叱られた。ちゃんと説明しなよって」
「津田さんが?」
意外そうに返す瀬名は、いつも温厚な津田が水上を咎める図など到底浮かべられないでいる。
「俺はきっと、傲慢になってたんだと思う。
瀬名は言わなくても分かってくれるって、無条件に信じてくれるもんだと高をくくってた。
でもそれじゃ信頼関係は築けないんだって、津田に指摘されてようやく気付いたよ。情けない事に」
「私も、いつも遠慮しちゃってたから」
瀬名がすくい上げるように水上を見た。
傲りのあった水上と、自己主張を恐れる瀬名。
二人に決定的に足りなかったのは信頼の基盤となる会話だ。
関係を維持するエッセンスは、甘い台詞やムードだけじゃない。
離れていても不安を打ち消してくれる絶対要素は、盲目的な愛の言葉ではなく、根底に敷かれた信頼関係だ。
「彼女は単に会社の部下だけど、俺が上司である以上、電話連絡や仕事の相談をされる事があるかもしれない。
それはどうしても無下には出来ない。だけど…」
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