第四話

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あの出来事が起きたあの日から、ハクと会話をすることが怖くなってる自分がいた 女の前で涙を流すなんて・・・ ゆっくりと深夜の廊下を歩き、もう寝ているであろうハクが待つ部屋へと静かに入る 「・・・起きてたんか」 いつもは寝ているはずのハクが、布団の上にちょこんと座っていた 「はい、なんか嫌な予感がしちゃって」 ぴくっと自分の頬が引き攣ったのが分かった "嫌な予感"とは先刻起きた、あの事件のせいなのだろうか 「なんやそれ、怖い夢でも見たんかぁ思ったで」 ゆっくりと背中を向けるハクに礼を言って、着替えを済ませる 布が擦れる音だけが静かに響くこの空気がどこか居心地がええ 「山崎さんは明日が分かる日常をどう思いますか」 「ん?」 ハクと突飛な質問にふにゃりと顔が歪む 明日が分かる・・・未来が分かる そんな都合のええ世界があったら有難いかもなぁ・・・・ 「有難いんちゃうか?」 わいの発言にぴくりとハクの肩が揺れたのに気付いた 「誰かが死ぬと分かってしまっても・・・・ですか」 「んー、そやなぁ 分かるってことは、阻止できるってことやないか? やったら、死ぬはずの人間を生かすことだってできるやろ?」 「・・・・・・・着替え済みました?」 揺れる声に、どこか甘みを感じてしまうのは疲れのせいか・・・ 「あぁ、おおきに」 振り返るハクは、今まで見たこともない"女"に見えた 暗闇の中に、一つだけある光みたいな なんや、不思議な感覚や・・・・ 「もし、なにをしても変えることができないとしたら、山崎さんはどう思います?」 真っ直ぐに見つめてくるハクの瞳 わいは、すぐに逸らした あの瞳は苦手なんや 「怪我、してるんか」 さっきは分からなかったが、首元が赤紫に変色してるのに気付いた ゆっくりとハクの前に座り、髪を後ろへとどかす なにも言わずに、ただわいを見つめてくる瞳に口付けを落としたい 馬鹿な己に内心、苦笑いしかでない 綺麗なんや、出会った頃から変わらんハクに どんどん惹かれてる己がいる その事実が、己の理性を少しずつ蝕んでいくのに気付いたのは、つい最近のことやった 傷を指で優しく撫でれば、ぴくっと動かなくなるハクが可愛くて、その初さが邪魔で・・・ 「・・・消毒せな、あかんな」 悲しい瞳に優しく笑いかけた
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