第3話 右手の温かさ

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「とにかく付き合うつもりがないならちゃんと断ってください。付き合うならとっとと付き合ってさっさと捨てられればいいんだわ」  さっさと捨てられる。  その言葉がわたしの心に深く突き刺さった。  どうして痛むの? 「あーあ、別の人に変わってもらおう。わたしだって仕事が溜まってるんです。こんないてもいなくてもいいような仕事、やってらんないわ」  結局名前を知ることもないまま派手女は帰っていった。  はぁっと息を吐きだしてから受話器を取る。 「……申し訳ございません。受付の如月ですけれど部長は……先程の兵頭様はお帰りになりまして……申し訳ございません」 「謝れば済むことじゃないんだよ。もういい、あんたに言ったってしょうがない……」  その後は何を言われたかよく覚えていない。  謝っているうちにガチャンと電話は切られた。  辛い気持ちになって泣きたくなったけれど、ふと右手を見つめたら心が落ち着いてきた。  繋がれた手、決して嫌じゃなかった。  ぼんやりと見つめてから、顔を上げた。 「好きになんてならない」
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