第3話 右手の温かさ

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 彼女はピンクの手提げバッグをどかっとカウンターの下に投げ出した。  そのままどんっと椅子に腰を下ろす。 「如月深愛です。今日はよろしくお願いします」  ぺこりと頭を下げたけれど、全くこっちを見ようとはしない。  鏡をチェックした後、その鏡を足元のバッグに投げ入れ、澄ました顔をして会社の外を眺めている。  わたしとは話すつもりありませんって意思表示に見えた。  なんだろう、この人。  こんな人が総務だなんて。  っていうか、受付に立たせちゃって大丈夫なのかな?  受付は会社の顔だと思う。  それは綺麗な外見ならいいということじゃなくて、清潔感があることや心遣いを持つこと、あまり目立ちすぎないことも必要なんだと思うの。  わたし達が制服に身を包むのもそのため。  外部と内部のパイプ的存在であって、そんなわたし達がインパクトを与える存在になってはいけないと思うんだ。
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