第0話 悪夢の国

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「初めまして」  〈スロク〉の中から一人、一歩前へと出て挨拶をしてきた。  私達は、彼の姿をみて驚かされた。〈スロク〉は個性的な連中が多く、私達も個性的だ。しかし、彼は、その中でも特に異彩を放っていた。異才ではない、異彩だ。統一性のない髪の色に肌の色。赤色に染まったかと思うと、突然、金色になり、黒くなり、白くもなった。その様は、まるで教会で見かける芸術的なガラス細工、ステンドグラスを見ているかのようだ。ステンドグラスのような彼の姿に、私達は魅入られそうになる。  こんなにも美しい青年が〈スロク〉を引き連れているというのか。一瞬、今という現実を疑いたくなった。だが、次に彼が言った言葉は、私達を現実へと引き戻すことになる。 「・・・では、死んでください」  彼は微笑みながら言った。その物言いは、残酷な王を思わせた。いや、残酷な王なら、まだ優しい方だ。彼の言葉は、宣言だった。これから、行われる悪夢への。  数百人にも及ぶ私達に対する死刑宣告。彼は無邪気な表情で言った。  それが、合図となった。私達は大地を揺るがすほどの、怒声と共に士気を高め、〈スロク〉へと向かった。  十数名に向かう、軍勢はまさに波だ。人という大波が、〈スロク〉を呑み込もうとしていた。常識的に考えて、彼らが私達に敵うはずがない。そんな思いこみをしていた。  すぐに、そんな常識など覆されることを知らずに。 「ふふ・・・。あなた達は馬鹿じゃないの?数だけで、私に勝てるというの?」  私達は目を疑った。  さっきまで、〈スロク〉の集団。その中にいたはずの、年端かのない少女が私達の中に紛れ込んで笑みを浮かべていた。  ありえない。いくら、私達が〈スロク〉を潰すことに集中していたとはいえ、この軍勢の中に、単身で、しかも、瞬間的に移動してくるなど。  私は本能的に、この少女に対し危険を予感すると、素早く、その場から離れた。いや、逃げ出した。恥も嬲(なぶ)り捨てて。こうすることしかできなかった。ただ、本能が危険だと告げた。  少女から間合いをとった、私は目を見開き、その光景を見た。 「ふふふ・・・」  少女は不敵に笑いながら、周囲から襲い掛かる刃を銃弾を一身に受けていた。だが、それらは全て少女に痛みを与えることはなかった。 「な、何だ!」  刃を突き刺した男は驚く。刃は少女を突き刺すも貫くことはなかった。
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