第0話 悪夢の国

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 刃が少女の身体に呑み込まれていく。いや、それだけではない。刃を呑み込んだ箇所から、刃を伝うようにして、少女が着ていた黒いワンピースが伸び刃の持ち主であった男に触れた。 「あ?え?ああああああああああああああああああああ!う゛ぁう゛ぁsじゃへんfdshfねlんfのさんdkふぉいんs;lfdsじおr4っmgふぃおっrm!」  男が何を叫んだのか、言葉は理解できなかった。ただ、目の前で男は少女の何かに侵食され呑み込まれた。最後には、言葉を出すことができず、黒い何かに沈んだ。 「ふふ・・・。羨ましい。悲鳴を上げることができなんて」  少女の身体から伸びる黒い何かは周囲にいた十数名の人を呑み込んだ。今度は、悲鳴を上げる間も与えずに。  その狂ったような光景を目の前にして尚、少女は笑っていた。自身が狂ったかと思えるほどに。 「本当にいいわアアアア!その悲鳴!私にはなくて、あなた達にはあるもの・・・。自由に動け、戦える、その姿・・・!その意思!本当に羨ましい・・・。『嫉妬』するほどにね。だから、もっと私に聞かせて!その魂の叫び声を!」  少女は目を真っ赤にして喜びの声を上げた。人から自由を奪う、その喜びの声を。 「おいおい・・・。アイ・・・。私の楽しみを奪うな・・」  この異様な光景に吐き気を覚える私とは違い、平然と少女に近付く若い男がいた。真っ白な服を着て悪魔のような尾っぽをもった人物だ。彼は眼鏡の縁を少し挙げると、服の横から一本の棒のようなものを取り出した。それは、オーケストラの指揮者が手にしている指揮棒のように見えた。 「ごめんなさい。つい、この人達が羨まして・・・」  少女は愛らしく謝ってみせたが、やっていることは人間することではない。悪魔以上の所業だ。 「気持ちは分からなくもないが、悲鳴で音楽を奏でるのは、私の特権なんだ。私の特権にまで嫉妬してほしくない。言ってくれれば、いつだって、最高の音楽を聴かせてやるから」 「そうだったね。だったら、さっそく、聞かせて!あなたの音楽を」  少女は円らな瞳をキラキラと輝かせながら言う。指揮者は仕方ないなといった様子で前に一歩出ると、指揮棒を振った。
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