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何が最善なのだろうか。栄太郎のことを頑として譲らない晋作は自分の利益しか見えていない。
栄太郎を己の駒として、自分の良いように使いたいが為に小春さんを遠ざけた。
本当の自分を取り戻すきっかけを小春さんは栄太郎にもたらしたはずだ。それをわざわざ何故、今更元に戻そうなどと思えるのか。
晋作は情ではなく、利益を求めて栄太郎を見ている……。
そんな晋作をどのように説得したら良いのか、九一に目配せをして思案していると、部屋の外から声がかかった。
障子越しに聞こえるその声はつい最近声変わりが始まったものなのに、障子が薄い為にこちらまでよく通った。
「久坂先生、少しよろしいですか?」
障子を少し開け、こちらを覗いてそう聞いてきた少年は佐助だった。部屋にいた者は一斉に興味を示すように顔を向ける。
「何事です?」
「あの、今しがた吉田先生が──」
「栄太郎が?」
「その、簡潔に言うと、走ってどこかへ向かわれたのです。とても慌てていた様で、いつもとは少し違うと思ったゆえに申しただけなのですが……」
「そうですか……。有難う、君はもう下がりなさい」
軽く頭を下げてから、佐助は障子を閉めて去っていった。
さて、どうしたものか。
「嫌な予感がするな。俺は後を追うぞ!」
案の定、晋作は直ぐ様立ち上がり、部屋から立ち去ろうした。しかし、その行く先を私は抜き身を振り下ろして防ぐ。行かれては困るからだ。
本来刀はこういう使い方はしないが、今は致し方なかった。其れ程事態が切迫していた。
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