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何一つ変わってなどいない。
寧ろ後退したくらいだ。
自分自身でも、何か変わる予兆を感じていたのかもしれないが、結局は逆戻りだ。
毎日が色褪せていく──そのような日常は少し前の僕なら普通だった。
だが、“あれ”と出会ってからは毎日が色を付けていくように鮮やかになって……。
僕自身、その事実がどれほど重大で大切なものなのかはもう気づいている筈だったが、やはり心の奥にしまい込んでしまいたくなる。
唯一の自尊心が僕をそうさせていた。
けれど、けれどやはり焦燥感に駆られ、何かが足りないともがいている己もいた。
その何かがなんなのかは気づいている。
だからこうして事ある毎に文を眺めているのだと思う。
今更この気持ちを認めるつもりは無いし、それより先に向こうが自ずと離れていった。
晋作には奉公先をそれとなく聞いてみたがはぐらかされた。きっと晋作が故郷を見つけ出し、無事に送り届け、好い人を見つけて幸せに暮らせばいい。
それでもう完全に関わることはないのだから。
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