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廊下を歩いていると、玄瑞の部屋の数歩手前で不意に足が止まった。中から声が聞こえたからだ。
声が聞こえたからといって足を止めることは無いのだが、玄瑞は普段から声を張るということはあまりしない。
つまり、部屋には玄瑞の他に晋作もいるのだろう。
僕は何故だか入っていってはいけない様な気がしてしまい、即座に気配を消し、柱に寄りかかりながら耳をそばだてた。
九一もいるのか……。
中からは、晋作に食ってかかる九一の声が聞こえた。その声は晋作を責めるようでいて、少し泣きそうなものだった。
そして話の内容は“あれ”のことについて。
何故九一が泣きそうなのか、それは図らずも屋敷を出ていくきっかけを自分が作り、可哀想なことをしたと負い目でも感じているからだろう。
それに対して晋作は、僕の為にそれは必要な犠牲だったのだとのたまう。
いい迷惑だ。本人のいない所で好き勝手喋って。
そのまま話を聞いていると、晋作はただ単に奉公に出した訳では無いと言い出した。
『あいつは知ってか知らずか壬生狼と関わりがある』
『小春ちゃんが!?』
壬生狼ねぇ……。
凡そ壬生狼は長州の内情を聞き出そうと“あれ”をだしに使おうとしてたのだろう。
しかし、幾らか前に町で壬生狼の連中と出会したことがあったが、僕が思うにあの時はきっと故意ではなくただの偶然だ。
晋作は壬生狼の動きが怪しいと言ったが、その時点ではまだ、だしに使おうとは思っていなかったはずで、怪しい行動が見られたのはごく最近のことだろう。
本当に、晋作は己の欲望に忠実だね……。
僕にとって晋作のその言い分は、壬生狼を言い訳にしているのは見え透いている。
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