恋ごころ。〔吉田目線〕

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未来から来た人物───。 あの夜、“あれ”を拾った夜に何処と無く感じた違和感が今埋められた気がした。 夜半に道端で倒れていた不自然さ。身に付けていた着物が目新しいものだということ。そして少し蹴り上げただけで脇腹から血が滲んだこと。 手負いの人間が夜更けに道端で倒れていることが既に異様であったから、普通なら気が触れた人間が徘徊していたと思っただろう。 しかしそれが、未来から飛ばされたのだと考えればそれはそれで全てに辻褄が合った。 時を越えてこの時代にやって来たのなら、知り合いなど当然いるわけもなく、故郷などないはずだ。 何故そのことを僕らに黙り、玄瑞だけに話したのかは分からない。初めて出逢ったその夜に、もしそのことを告げられていたら、僕は到底信じられないと斬っていただろう。それが普通の反応だ。 そうなることを分かっていたからきっと“あれ”は、自分の身を守る為に今まで秘密を隠し通し、行く宛など無いから内心嫌だと思いつつも僕の傍に仕えてくれていたのだろう。 けれど僕はその唯一の居場所をなくしてしまった。 決別したあの時、もし僕が拒絶ではない何かの反応を示していたのならば何も変わらずにいたのかもしれない。後悔先に立たずとはこのことだ。 あの後、屋敷を出たと知ってから僕は“あれ”が記憶を取り戻し、故郷を見つけ出して無事に帰すことを晋作に全て任せた。 しかしそれが今となっては無意味になってしまった……。 この時代に故郷など無いのに探したところであるわけがない。しかしそんなことを知らなかった僕は、“あれ”は既に故郷で許嫁でもいると思い、手を引いたのだと思っていたのに、 全てが無意味だったと分かると─── 女嫌いであった己の自尊心など既にかなぐり捨てて、足が動き出していた。
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