恋ごころ。〔吉田目線〕

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早く連れて帰ろう。 場所が場所だ。ここには居たくないと焦る気持ちとは裏腹に、向こうは僕が島原にいることが信じられないとでもいった面持ちでこちらを見つつ、一歩また一歩と足を引いていく。 その姿が、腹立たしい。 一気に間を詰めようとした時、遂には後ろへ振り返り逃げ出した。 すぐ様その後を追おうとしたが、人が邪魔して思うように近づけず、少し離れた先を見やると逃げ出した筈のその姿は一向に小さくならない。振り返ってすぐ誰かにぶつかってしまった様だった。 そのまま逃げるのかと思ったが──何かがおかしい。 ……動かない。 足の裏が地面にくっ付いてしまったかのようにその姿は静止している。いや、動けないのか……? ぶつかった相手の方を見れば、口元が布で覆われ、深く笠を被っていたのでよくは見えず、男か女かでさえ分からない。そして直ぐに人混みへと紛れてしまった。 おかしい……。 背中を丸め、少し猫背気味になっていくそれに違和感を抱いたが──次の瞬間何が起こったのか僕の本能は読み取った。 血の気が失せていく顔。 お腹を押さえ、前屈みになっていく小さな身体。 そして、その腹部には───血。
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