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屋敷に戻ると、佐助が門の所で出迎えていた。
「──あっ! 吉田先生、お帰りなさい!」
「佐助、玄瑞はいる?」
「あ、あの……」
「玄瑞は?」
「自室にいらっしゃいます……」
どこか戸惑った様子の佐助の脇を通り過ぎ、玄瑞の元へ向かう。後ろから付いてこようとしないそれに向かって、一緒に来るように促した。
「あの、吉田先生は一体どちらへ行かれていたのですか?」
「後で話すよ」
「はい……」
「少し慌ただしくなるかもしれない」
「え──」
話している内に玄瑞の部屋までやって来た。問答無用に障子を開けると、中には玄瑞と九一の二人。揃って少し驚いた顔をしていた。
そして晋作の姿が見当たらないことを確認すると、背後にいた佐助に探してくるように頼んだ。
勿論、何もしないから安心して戻ってくるようにという言伝も。
「え、栄太郎……。その、あの、小春ちゃんは一緒じゃないの?」
その体の半分を玄瑞の影に隠して、おどおどした様子で訊ねる九一。揃いも揃って僕に隠れてこそこそしていたことを考えると、今この場で問い詰めてやりたくなるが、今はそれどころじゃない。
「何かあったのですね?」
「……想定外のことが起こった」
玄瑞の問いに答えながら、取り敢えずその場に座った。手近にあった湯呑みを取り、中の茶を飲み干す。
相変わらず、薄くて不味い。
「その様子だと、走り回っていた様ですが──」
「小春は連れて行かれた」
「えっ!?」
二人揃って目をひん剥いて驚くそれに、つられないように冷静を保った。本当は今すぐにでも探しに行きたい。こんな所で座ってなどいられない。
けど、僕一人の力では恐らく限界がある。
「ていうか今小春って───え、ちょっと栄太郎! 待って話が飛躍し過ぎて分からないよ! どういうこと!? 最初から説明して!」
「……栄太郎どういうことなのですか?」
騒ぎ立てる九一に、冷静さを取り戻した玄瑞。取り敢えずうるさい九一に拳骨を食らわして大人しくさせてから、二人に事の次第を話した。
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