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まず島原は祇園祭で人がごった返していたこと。只でさえ小春を見つけにくかった状況だったことを話した。
そしてそんな時に、辻斬りが起こった。
「辻斬り? まさか栄太郎じゃないよね?」
そんなふざけたことを吐かす九一の頬にもう一発。痛いよぉ、と半べそをかくそいつの思考回路には呆れてしまう。
小春を探しに行ったのに何故僕は辻斬りを起こさねばならないのか。
「だって、小春ちゃんはきっと、辻斬りが起これば栄太郎の仕業かもしれないって思うかもしれないじゃん」
頬を抑えてむくれながら言う九一の言い分は分かるが、どこか気に入らない。あんな事があったのに、危険を冒してまでわざわざ僕に会いに来ようとは思い難い。
そんなことより、と続きを促す玄瑞に、辻斬りが起こって逃げ惑う人、群がる人の中から小春を見つけたことを説明した。
「ほらやっぱり! 辻斬りが起こって下手人は栄太郎だと小春ちゃんは思ったんだよ!」
「九一、その五月蝿い口を縫いつけて二度と喋れないようにしますよ。少し黙ってて下さい。それで栄太郎、何故小春さんを見つけたにも関わらず、連れて行かれたのですか?」
「兎に角、辺りは人が多かった。そう容易には近付けなかったんだよ」
一歩進むのがやっとなくらいに、周りの人は辻斬りで気が動転していた。そんな人の流れを掻い潜るのは難しかった。
「そしたら、僕がうだうだしている間に、小春の背後から誰かがやって来て……刺された」
「刺されたのですか!?」
「気がつけば刺されていて、今にも倒れそうな小春を抱きとめようとしたけど、間に合わなかった…」
思い出すだけでも歯痒い。あの時、僕が抱きとめていれば連れて行かれることは無かった。後悔ばかりが押し寄せるけれど、過ぎてしまったことは仕方ない。溢れてしまった水が戻せないように。
今しなければならないことは一刻も早く小春を取り返すことだ。
するとその時、背後の障子が静かに開き、振り返ると佐助と佐助が探しに行っていた晋作がそこに立っていた。
「詳細は全部聞かせてもらった。悪いな栄太郎、俺の危機管理が甘かった」
「取り敢えず謝ればそれで済むと思ってるの?」
やって来て早々、盗み聞きしていたくせに動揺した素振りも見せないそいつに、苛立ちが隠せない。そもそもな話、奉公に出そうなどと下らないことをけしかけたこいつに非があるのではないか。
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