恋ごころ。〔吉田目線〕

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刀の鞘を掴み、今ここで斬りかかろうかとも思った。だが、この場面でそれは賢明ではないと判断してその手を下ろした。 冷静に周りを見渡せば晋作以外の全員が、額に玉の様な冷や汗をかいているのが見て取れた。 そうだ……、本来の目的を忘れてはいけない。 「その手を下ろしてくれて助かるよ栄太郎。取り敢えず、今回の件は俺のせいでもある。お前が真剣に考えているように、俺にもケジメを付けさせてくれ」 普段の晋作なら逃げるか言い訳を並べるだけだが、怯えた様子も見せないということは真摯に事を受け止めているのだろう。 「お前が屋敷に戻ってから、ずっとあいつのことを“小春”って言ってるのを聞いてな、嗚呼、こいつを懐柔するのは無理だなって覚ったよ」 「言っとくけど、誰に対しても、僕は懐柔されるつもりは無いよ」 「いいや。今だって刀を下ろしただろ? それは小春の為だからだ。小春を一刻も早く救うべくして下ろした。お前を変えたのは小春だ、それは認めざるを得ない」 「……君がそんなことを言い出すなんて、明日雪でも降るんじゃない?」 口先でそんなことは言いつつも、内心ではそのことについて自分が一番身に沁みている。 そんな中、部屋の隅にぽつんと立っていた佐助が静かに口を開いた。 「あ、あの……僕は退室させて頂いても宜しいですか?」 今頃になってそんなことを言い出すもんだから、九一が間が悪いよと思わず吹き出した。当の本人は何とも言えない表情で、さも理不尽だという顔をしている。 まぁ、指示を与えなかった僕が悪い。 「今大事なことを話している。殆ど聞いていたかもしれないけど、君もここで話を聞いて」 「は、はい!」 今迄なら、このような話し合いの場に佐助を立ち会わせたりしないが、今回だけは違う。佐助は、自分はまた一つ認められたのだと、嬉しいのかほんの少しそれが顔に出ているが。 まあ本音を言えばどの道、言わなければならないことがあるから今言うに越したことは無い。
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