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「それで話を戻すが栄太郎、小春のことはどうするつもりだ?」
佐助もこの話の輪に入り、座したのを確認した晋作が口を開く。すると先程の和やかな雰囲気から一転、各々が神妙な面持ちに変わり、居住まいを正して視線が一点に集中した。
僕の答えはとっくに出ている。
「勿論、迎えに行く」
「そんなことは当たり前だろ。それよりも何処にいるか分かるのか?」
「凡そね」
小春を連れ去ったあの黒装束の男。顔は隠れておらず一瞬しか捉えられなかったが、一度見たことのある顔だった。
その時は確か……女装をしていたか?
以前小春と小春の知り合い二人と茶屋に訪れた時のその店の看板娘だ。確かあの時、身内の者に似ていると、二人の内小柄な男の方が団子を頬張りながら言っていた気がする。
もし黒装束の男が諜報を主にする裏の人間だとしたら女装をしていたことも頷ける。
そしてその看板娘と黒装束の男が同じ人物だとしたら───
「少しいいですか?」
何か気づいた様に玄瑞が隣から訊ねた。
「栄太郎は連れ去った人物に心当たりがあるのですよね? 心当たりがある人物ならば居場所も分かる筈。なのに何故すぐその場へ行かなかったのですか?」
やはりこの男はなかなかに鋭い。自分から訊ねなくともすでに答えが出ているのではないかと疑いたくなるくらいに。
小春が連れ去られた直後、まだ周辺にいるかもしれないと探し回ったが結局見つからなかった。しかし探し回っている内に、連れ去った人物の居場所に見当がついてそこへ行こうとしたが、行かなかったのには理由がある。
「ねぇねぇそれって、もしかして俺等が行きにくい場所?」
九一も馬鹿なりに頭が回るらしい。
「やはり壬生狼ですか……」
玄瑞の確信めいた問いに、そうだと頷いた。
だが、それが確実とは言えない。恐らくその可能性が高いということだ。
身内に似ていると言われていた看板娘と、小春を連れ去った者が同一人物であるとは限らないかもしれない。見当違いなことを言っているのかもしれない。
だが、か細いたった一本の糸でも切り落としたりせずに手繰り寄せて、どんなことでもいいから次に繋げたい。
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