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「なあ、連れ去った奴等が壬生狼だという確証はあるのか?」
やはり聞いてきたかと晋作の的を射た質問に、誤魔化すことなく「無い」と答えた。
「栄太郎、確証が無いのは分かる。だが憶測だけで決めつけて、もしも当てが外れたらどうするつもりだ? 無闇に騒ぎを起こすことは出来ないんだぞ?」
「そうだね……。でも晋作は今回の件についてケジメをつけると言ったよね? 僕はそんな時こそ君の出番だと思ってる」
己が言い出したことだ。きちんと責任は償ってもらう。丁度いいではないか、晋作は方々に顔が広い。小春の確たる居場所が分からない現在、晋作にはそれこそ探し当ててもらわなければ。
「君の情報収集と野生の勘はいざという時頼りになる。顔が広いのは色街に関してだけど、だからこそ君のような色男にしか出来ないんじゃない?」
「なっ、お前なんだか気持ち悪いな。ったく分かったよ。居場所探しは俺の役目だな? まあ俺のように広く顔が効く奴なんて他にいないし、それに俺は色んな女から誘われるくらいの───」
単純馬鹿だ。取り敢えず持ち上げておけば何のいざこざも無くすんなり引き受けてくれる。
容易いな……。
少しおだてたくらいで自己陶酔に浸る晋作は放置し、それ以外の面々で話を続けようとした。
すると、脇にいた佐助が「あの……」と僕の着物の袖を軽く引っ張る。
「吉田先生、さっき入江さんと話をしていたのですが、もし仮に壬生狼に小春さんが居たとします。それで僕らはどのようにして助け出すのですか?」
「そうだよ栄太郎、どうするつもりなの? 俺等が揃って壬生狼の屯所に殴り込むの? それとも向こうから自発的に出てくるように仕向けるの? ねぇねぇ、どうなの? ねぇ栄太郎───」
「五月蝿い」
俯く僕に対して、身を乗り出して覗き込むように訊ねる九一のこめかみを両の拳でぐりぐり挟んだ。精一杯力を込めて。
「──痛っ! 痛っ! 痛あぁいよ栄太郎ぉ!!」
「五月蝿いから」
「五月蝿いからってこれは無しで──痛あぁい!」
一向に黙らない九一にもう一度ぐりぐりしたら、「久坂ぐぅぅん」と半べそをかいて逃げて行った。情けない。
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