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その後玄瑞は、これから朝廷で起こることに対して出来うることは全てしたいと部屋を後にした。恐らく桂さんと合流して対策を練るのだろう。
そして九一も……。
「俺多分何も役に立てないと思うけどさ、この場にいて長州が緊急事態だって知っちゃったし、久坂くんと一緒に行くよ」
俯きながらそう言った九一は、玄瑞の後を追うようにして部屋から出て行った。きっと内心では京から離れたくないのだろう。何処かの誰かに懸想していると聞いたが、その誰かを京に残して萩に帰ることになれば心残りに違いない。
「九一の奴、最近変わったんだよ。島原や祇園に遊びに行こうつっても全然誘いに乗りやしねぇ。まあお千代のことがそれだけ本気だったんだろうなぁ」
「お千代?」
「ほら、女中頭をしてたお千代だよ。もう辞めちまったけど」
ふーん、お千代ねぇ……。九一も罪な男だよ。
「そうだ栄太郎、お前これからどうするつもりだ? 藩を抜けると言ったっていつ抜けるんだよ?」
「明日──いや、もう日が変わりそうだから今日?」
「おいおい!」
「明日は大変になるでしょ? 混乱に乗じればすんなりと抜けれるよ」
きっと明日は慌ただしい。僕が一人脱藩したとしてもそれどころじゃないだろう。もしかして脱藩したことさえも気付かれないかもしれない。ならば好都合。ひっそりと抜け出して、暫くは長屋でも借りて身を潜めていればいい。
「晋作、頼むよ」
「お前が頼むなんて珍しいな気持ち悪ぃ。まあ小春のことは俺にも落ち度があったからな。任せとけ」
これから長州は表立って動けなくなる。脱藩するとはいえ僕だって長州人には変わりない。小春の居場所くらい自分で探し当てることは出来るが、動きが制限されるとなれば話は別。
ましてや人付き合いの無かった僕にとっては、京で贔屓にする店や人達との繋がりなど無いから情報を集めようにも思うようにいかないことは明白だ。
現時点で壬生狼が連れ去ったという凡その目処がついているが、これだという決定打がまだ見つかっていない。そんな状態で蜂の巣に自ら突っ込んでいき、やっぱり蜜は無かったとなれば後の祭りだ。
今は晋作に頼るしかない。
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