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次の日の朝。
昨日のそのままで島原に行ってもよかったのだが、やはり人が居ない時が良かったので、店が落ち着いた頃を見計らって輪違屋に向かった。
隣を歩く晋作の顔はいつに無く険しい。
それもそうだろう。表の通りは京にいた諸藩の藩主達が兵を引き連れて続々と御所に向かっていたからだ。
僕達は面倒事に巻き込まれないように裏道から島原に向かっていた。
「ったく、事態を少し甘く見ていたな。久坂達が何とかしてくれるだろうと思っていたが、手遅れだ」
「今更気づいたの? 僕らが好き勝手していた間にも、隙を狙ってた奴らは背後からずっと好機を狙ってた」
「なんだよ、知ったような口振りだな。お前は藩を出るからいいだろうが、残された俺らは事態の収拾に追われるんだぞ」
まあそうだろう、簡単に言えば他人行儀だ。あれだけ関わっておきながら無責任だと思う。けれど、こうなることは薄々感じていた。
互いに曲げられない信念や思想、利益が絡めば、計らずとも何れはぶつかり合う。僕等はただそれを油断して見落としてしまった。
こんな瀬戸際になってまで向こうの異変に気づかなかったのは些か疑問に思うが、脱藩するとはいえ僕の思想や考えることは何一つ変わっていない。
ただ、成し遂げたかった夢よりも、今は小春の方が大事だと思ったからそちらを取っただけだ。
「僕は、長州がどうなってもいいなんて思ってない」
「はいはいそりゃどーも」
隣を気怠そうに歩く晋作からは、まるで本気にしていないかのような生返事がかえってくる。
そうこうしている内にも僕らの足は島原に着き、詳しい場所を忘れていたので晋作の後について輪違屋を目指した。
*
「高杉先生!」
店表から出てきた晋作の連れは、若干驚いた素振りを見せたがそれは一瞬だけで、すぐに憔悴しきった顔に戻った。
「悪いなうの。店先じゃなんだから、中に入らせてもらうぞ」
晋作がそう言うと向こうの断りもなしにずかずかと足を踏み込んでゆくので、無粋だなぁと思いながらも僕もそれに続いた。小春の部屋に向かいながら、晋作は連れに「萩に帰ろう」などと説得しているが、僕が後ろで構えていたからなのか渋い顔をしている。
「吉田先生、今回は申し訳ありませんでした。私の管理が行き届かずに片桐さんを……」
「構わないよ。端から期待などしていない」
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