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「栄太郎、一体どういうことだ? 俺達にも詳しく話してくれ。輪違屋の主人にも協力を求めてどうするんだ?」
「壬生狼がこの輪違屋の芸妓達を呼んで宴を開くことに賭けるんだよ」
晋作も馬鹿じゃない。そのくらいまで言えば大凡のことは自ずと把握出来るだろう。
その僕の言葉を理解した途端、目をひん剥いて「は?」と呆気に取られる晋作。やはりといった感じか。
「お、お前、そりゃ随分と大きな賭けに出たもんだな。自分が言ったことを理解してるのか? この京には花街、揚屋なんか幾らでもあるんだぞ! 宴を開くにしてもこの輪違屋を選ぶとは限らない」
「勿論、それは僕も理解している」
「雲を掴むような話だ! 壬生狼が輪違屋を選ぶはずだという決定的な何かがなければな! 無論あるんだろうな?」
「……無い」
「おいおい──」
「それだけ切迫してるってことだよ」
呆れ返る晋作に、この場にいる者も不安げにこちらの様子を窺っている。
小春を取り戻す為に出来ることは、今の僕にはこれしかない。それだけ僕は追い詰められているし、世情が動き出している今、こちらのいい様に動くとは限らない。
一つずつ手探りで探すにしても、例え目処がついているとはいえども、町を堂々と歩けなくなれば手掛かりなんて見つけられる筈がない。
「晋作、君が無理だと言うなら僕一人で輪違屋と協力して事を進める。君は外れて構わない。ただ何か───」
「馬鹿言え。あのなぁ友の頼みを断るほど俺は落ちぶれちゃあいない。俺に出来ることがあったら何でも言え」
「……助かるよ」
輪違屋の主人の元へ足を運ぶ最中、両手を組みながら横目でこちらを見る晋作が今はただ頼もしくてならなかった。
内心では呆れているはずなのに、壬生狼に小春がいるという確証を得たいがためこんな賭けに乗ってくれる友がとても有難かった。
小春は大丈夫だろうか……。
あれくらいで易々と死ぬような女じゃないことは分かる。だが、初めて会った時には既に刺されたその治療痕があり、今回刺されたところも同じような場所。
これ以上増えなければいいが……。
小春の身体の傷と精神状態が今はただ心配でならなくて、それだけが頭の中を駆け回っていた。
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