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「一体どこに行くんですか!」
こんな場所では行くも何も、辺りには何も無いのだから急いだって意味がない。それに、二人に会うまでは無我夢中で走っていたから体がヘトヘトだ。少し休ませて欲しい。
「吉田さん待って……!」
そう言っても強引に掴む手が緩むことはなく、歩調も一向に遅くなる気配がない。その間にもだんだんと足がもつれて、力が入らなくなってきた。
普段走っていてもこんなに疲れることはないし、今感じている倦怠感が妙に生々しかった。
「小春! お前……」
後ろから、何故か青ざめた一さんが私を呼んだ。どうしてそんな顔をしているのか気になったが、自分が走ってきた跡を目で追うと……。
「血……」
この真っ白な空間に、一さんの所から私までの間に真っ赤な血が鮮明に落ちている。
どうして? なんで?
一さんの所からその血を目で順に追うと、最後は私の下腹部にたどり着いた。よく見ると下腹部には刺された傷があり、そこからドクドクと血が溢れてきているのに何故だか痛みを全く感じない。
あぁ、そうだ。私、刺されたんだ……。
思い出されるのは気を失う直前の出来事。それと同時にこの夢が覚めていくのを感じ取り、私はゆっくりまぶたを閉じた。
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