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「ひとつ聞いてもいい?」
「なんですか?」
「あなたのそのお腹の傷は──いえ、傷だった所は普通のそれとは違うわ。それに、長州のお屋敷で私が聞いたことが関係するのであればそのお腹の傷のことも納得がいく気がするの」
「あの、一体どういうことですか?」
「盗み聞きして悪かったと思うわ。でもこれだけは言える。信じる信じないの前に、私は決してこのことを口外はしていない。もちろん壬生浪士組にも」
お千代さんの言いたいことがいまいち掴めない。
私について長州のお屋敷にいる時に何かを知ったみたいだけど、一体なんのことを……。
「あなたは、未来からきたのでしょ?」
「えっ!? な、なんでそのこと!」
「情報を集める中で、つい小春ちゃんと久坂先生との話を聞いてしまったの」
へぇそうなんですか、とは流石に言えない。それと同時に、もっと自分の言動に気をつけるべきだったと後悔した。
驚きの余り、自分の心拍数が一気に跳ね上がり、全身が脈打つ感覚がする。気づけば手はじっとりと汗ばんでいた。
目の前のこの人は、以前お世話になったとはいえ、壬生狼に協力している人であって私が隠していたそのことが知られているとなると、私が今この屯所にいるということは何か、何か利用されたりするのではないかと不安になる。
「わ、私に何かしろとでも言いたいんですか?」
思わず声が裏返ってしまう。しかしお千代さんはそれを見て困ったように笑ったので、私はまたそこで驚いた。
「私の話聞いてた? このことは誰にも口外してないと言ったでしょ」
「あ……」
「そう身構えないで。小春ちゃんのことをどうこうするつもりはないから。少なくとも私は……」
「じゃあなんで……?」
「あなたがどういう因果でそうなってしまったのは分からないけれど、何故かしらね……。あなたを見ていると放っては置けないの。だからこのことは一切誰にも話していないし、これからも誰かに話すつもりはないわ」
その言葉を素直に信じていいかは分からないけど、目の前のお千代さんの瞳は至って真剣そのもので、信じるまでとはいかないけど、言っていることは嘘ではないと思った。
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