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そして何故私が壬生狼の屯所で引き取られているのかを、お千代さんは説明し始めた。
「副長さんは、小春ちゃんを囮として使って吉田先生をおびき出そうとしているの。知っていたかしら? 近頃町では辻斬りが度々あったのだけれど、その下手人が吉田先生だってこと」
「えっ!?」
今日は驚くことばかりが続く。吉田さんが辻斬りをしていたのは、なんとなくだけどそうなんだろうなとは思っていたけど、壬生狼は吉田さんをおびき出すために私を利用しようとしていたとは。
「あなたが奉公に出て行方知らずになった時は肝を冷やしたわ。血眼になってすーちゃんと一緒に探した。直ぐに見つかったけれど誘拐するわけにもいかない。だからあなたからこちらに来るように仕向けようとしたけど──」
「じゃあ、私を刺したのは壬生狼なんですか!? 私を刺して助ける振りしてここに連れて来た……」
「それは違うわ。小春ちゃんを刺した人物は分からないけど、壬生浪士組の者じゃないことは確かよ。あの場ですーちゃんは酷く驚いたと聞いたわ。とにかく想定外のことばかりで、あなたを保護した後あなたの荷物を取りに行ったと言うけど、いつ吉田先生が自分を見つけるかびくびくしていたみたい」
吉田さん……そうだあの時あの場にいたんだっけ……。
刺された私を助けようとしていたみたいだったけど、人混みが多くて近づこうにも近づけない様子だった。あの時の吉田さんは普段表情を変えることなんて滅多にないのに、今までに見たことのない焦りが顔に出ていた。
きっと、本当に私のことを助けようしていたんだと思う……。
「好きなのね」
「え?」
急に突拍子もないことを聞かれて、声が上擦った。
「小春ちゃんは鈍感なんだと思うわ。他人に対しても、自分に対しても。というより今は自分に対して鈍感な振りをしていると言った方がいいかしら?」
「どういうことですか?」
「自分の気持ちを偽っては駄目よ。いいことなど決してない」
どうしてお千代さんにそんなこと言われなければならないのだろう。私や長州の人たちを欺いてたというのに、私の味方のような発言したり……。
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