八月十八日。〔小春目線〕

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「蝶ちゃん! 土方副長が帰ってきはったで!」 いきなり気配もなく、物音立てずに障子から入ってきた山崎なんとかさんに、私は思わず「うおっ!」と変な声が出てしまった。 まったくプライバシーも何も無いな……。 「せやから今すぐにでもその娘と会わせたいんやけど……ちょ、蝶ちゃん?」 「……すーちゃん? ここ、誰の部屋や思うてるん? 女の子の部屋やで? 声もかけんと入るやなんて」 「え、いや、せ、せやから──」 「うん?」 「いや、ほ、ほんまに、拳骨だけは勘弁してや!!」 そんな成り行きを見守っていた私。冷たい目で容赦なく振り下ろすお千代さんの拳骨と情けない悲鳴に「あーかわいそー」と他人行儀に思っていた。 「すーちゃん、小春ちゃんはまだ傷が癒えてないんやで? そないな状態で会わせられるわけないやない。あんな男」 「傷や言うても、肝心の傷はもう消えてるねんで……」 「だから! それは幻や!」 傷が消えたと言い張る山崎なんとかさんと、それを何とかはぐらかそうとするお千代さん。私はもちろんこの男の人に傷が消えたなど言い触らされたくないし、そんなことを信じられたら未来から来てしまったこともバレてしまうかもしれない。 何が言いたいのかと言うと、私はこの場でお千代さんの味方をして誤魔化す協力をしなければならないということだ。 「あ、いたたた……」 「小春ちゃん大丈夫!?」 痛いフリをする私に、駆け寄るお千代さん。山崎さんは疑り深い目を向ける。 たとえフリだとしても目の前のこの男を騙せるとは限らないので、ちょうど空腹感を通り越して胃が少し痛かったのでその痛みを利用して大げさに痛がった。 するとどうやらそれを信じたようで『ほんなら蝶ちゃんから土方副長に報告しといてや』と若干むくれながら言っていた。
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