八月十八日。〔小春目線〕

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そのまま部屋の隅に向かってブツブツ言い始めたその人をよそに、はぐらかすことに成功した私とお千代さんは目を見合わせて小さく笑った。 その後は、お千代さんの言った通りに土方副長さんと会うことは無く、むしろ誰にも会うことなく数日の間はこの部屋で休んでいなさいと言いつけられた。 お千代さんはそう言ったけれど、私の予想では明日辺りにその土方さんと話をするんだろうなぁと若干不安に、いやだいぶ不安になりながら一日を過ごした。 土方さんについてはお千代さん曰く、勘が鋭すぎて一緒の部屋にいるだけで気が休まらない、あんな男の側に平気でいれるのはよほど鈍感な人だけだと言っていた。 それを聞いた途端、ますます会いたくなくなった。 「はぁ……」 一人お布団に大の字で寝そべって、ぼーっと天井の木目を眺めながら考えていた。 幸いにも体がだるいとか、どこかが痛いとかそんなこと全く無いくらいに元気で、正直に言うと暇を持て余していた。 一さんや沖田さんは私と顔見知りだからてっきり会いに来るかなと思ったけど、そんな気配が全く無いまま日が暮れていった。 夕方頃、お千代さんが夕餉を持ってきてくれた。それをもりもり食べていると、念の為よと言って食後に飲みなさいと、どす黒い煎じ薬を差し出してきた。 「うわ……」 「体は大丈夫みたいだけど、念の為。ね?」 その「ね?」に込められた有無を言わさない眼力に負けて、私はご飯を食べた後、大人しくその煎じ薬を飲み干した。 うへ、まず……。 舌がびっくりするくらい苦い煎じ薬。それを飲んだことをお千代さんが確認すると、今日はもう床に就きなさいと、そう言って部屋を出て行った。 今日一日中ごろ寝してたんだけどなぁ……。 もう寝るのか、寝れるわけないじゃんとか心の中でぶつぶつ思いつつも、行灯を吹き消して素直に布団に入った。
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